この人の口から発せられる一言一言にそれは宿る。御霊が宿った怪談話からは、一瞬たりとも気が抜けない。
この空間には、はっきりとは分からない何かがいる。後ろは絶対に振り返れない。
瞬く間に空間を支配する稲川淳二の怪談話が貴方の背中を凍らせる。
9月2日にロゼシアターで行われる「稲川淳二の怪談ナイト2011」現在では夏の風物詩にもなった稲川淳二の怪談。
何故、あの身も凍るような怪談を始めるようになったのかを聞いてみた。
子供の頃から、おふくろやおばあちゃんが話してくれる怪談話が好きだったんですよね。特に私は団塊の世代に育ったので、周囲にやたらと子どもが多い。小学校の時は40人ほど入ればいっぱいの教室に、60人の生徒がいるわけですよ。雨が降ろうものなら、休み時間は外で遊ぶわけにもいかず、教室でも何もできない。そういう時に何をするかっていうと、みんなを集めて怪談話をするんですね。私は家族が話す怪談話をずっと当たり前に聞いていたから、それを同級生に聞かせていたんですね。
テレビやラジオで放送されるようになったきっかけは、『オールナイトニッポン』のパーソナリティーを務めることになって、その放送が深夜3時からだったんですよね。その頃はお金もないし、終電でラジオ局まで行くんだけど、本番が始まるまで時間があるでしょ。すると、みんな「怪談話やって」って私のところに来るんですよ。で、喫茶店で人に聞かせていた。当時は、有名歌手の方がラジオ局の機械を使って、夜遅くに音入れをしに来ていたんで、喫茶店にはそんな有名歌手やマネージャー、局の偉いさんとかが私の話を聞きに勝手に集まって来ちゃってね。そんな中、ラジオのプロデューサーから、「暑い夏になってきたし、深夜3時ならあまり人も聞いてないから、怪談話でもやらないか」って言われてね。
それで、やってみるとすごい反響だったんですよ。
深夜3時なんて、受験勉強でもしている高校生ぐらいしか聞いてないと思っていたら、年配の方がたくさん聞いていてね。ラジオ局にはプロデューサーや作家も出入りするから、そういう人に頼まれて、テレビでも怪談話をするようになったんですよ。
その頃は、テレビで怪談話をするもんじゃなかったし、する人もあまりいなかったから、キワモノの世界が珍しかったんでしょうね(笑)。
いつも言うのは、怪談は事件ではないということ。事件というのは、「何年のいつ、どこどこで、こういうことがあった」というもので、怪談ではない。怪談には、「なぜ人はこんなことをしてしまったのか」「なぜこういうことになったのか」という因縁めいたものから、悲しい物語など、人間の気持ちの部分が含まれている。もちろん聞くと怖くもなるし、優しい気持ちにもなる。それが怪談の魅力で、だから怪談はおもしろいんですよね。ただ、ちゃんと真実が伝わっていないことも多くてね。長く語り継がれている「赤い半纏」という怪談話はすごく怖いけど、真実を突き詰めると特攻の話で、それは美しい話なんですよ。それを何も知らない学者が喋って、間違った形で語られると、だんだん真実が消えていく。みんなえらく勘違いしているけど、河童や雪女、座敷わらしの話にもちゃんと真実があるし、その真実を私は伝えたいんですよね。
この前ね、小学校3年生の男の子から手紙が来て、「僕は稲川淳二さんのファンです。お父さんは稲川さんのDVDやCD、本などを全部集めていて、ライブにも行っています。僕も大人になったらライブに行くのを楽しみにしています」って書かれていてね。
それで「これはお父さんから聞いたとっても怖い話です。よかったら舞台で使ってください」って書いてある。読んでみたら、私の話なんですよね(笑)。それがすごく嬉しかったんですよね。
お父さんはライブから帰って、ちゃんと子供に話をしているんですよ。そうやって人から人へつながって行くんですよね。
それに怪談話の後は、みんな怖いから「一緒にトイレについて来てくんない?」とか言ったりしてね。怪談は人を結びつける何かがあるし、そういうものを少しでも残していくのが、きっと私の役目だと思っています。
怪談というもの自体は、「感性」というものが日本人にある限り、無くなる事はないでしょうが、確かに状況は変わっていくでしょうね。
町には暗闇が少なくなり、土や風の匂いも薄くなって、お若い方には黒電話や公衆電話でさえもが過去の遺物ですからねぇ。確かに変わってはいくでしょうね。
もちろんたくさんありますね。初体験というのは、まだ小さな子供の頃ですかねぇ。夏に田舎のおじさんに手を引かれて、夜道を歩いていた時に「ひとだま」というものを初めて見たんですよね。きっとそれが最初の体験だと思いますね。
あえて言うなら、「闇」、「幻覚」、「イメージ世界」でしょうかね。
もちろん私自身のためのイベントでもあるけど、この「怪談ナイト」は社会の潤滑油というか円滑にする役割を果たしているんじゃないかと思っているんです。どうやら、みなさんにとって、怪談話をする私は“田舎のじいさん”なんですよ。舞台には土手があったり、川が流れていたり、水車小屋に水が流れていたりと、本格的なセットを組んでいて、お客さんも知らず知らずのうちに、田舎に来た感覚になるんだよね。だから、私はみんなの“ふるさと”になっているみたい。夏になると、私に会いに来てくれるお客さんはまるで家族のようだし。ひと夏のツアーを5、6公演回るお客さんは結構普通にいて、中には10公演以上回る常連さんもいるからね。「場所が変われば、また違う」って言ってくれるんだよね。私の舞台はどこか落ち着くらしいんですよ。どうぞ、お気楽にいらして下さいな。
怪談はあくまでも娯楽なんですから…。「怪談じじぃ」がお待ちしておりますよ。
ありがとうございました。
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